なお先生のアンテナ

個別指導の塾講師です。教育に関して日々、気づいたこと、シェアしたいことを綴っています。

来年、中学英語が大幅レベルアップ!

昨年に続き、教科書展示会へ行ってきました!

今回の目的は、来年から使われる中学校の英語教科書

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表紙

今年(2020年度)から小学校の英語教育が必修化になり、

5,6年生が英語を学び始めました。

それを受けて、2021年度、中学校の学習指導要領が改訂されます。

 

ということは、

「中学の英語は、どこから始まるの?」

 

そこで、2021年度から使われる教科書がいち早く見られる展示会でチェックしてきたというわけです。

 

昨年見てきた、小学校教科書(2020年度から使用)についてはこちら。

naomat.hatenablog.com

 

新学習指導要領で中学の英語は?

まずは大前提として、

文部科学省の新学習指導要領で、

これまでと中学英語がどう変わるのか確認しておきましょう。

 

参考:中学学習指導要領(平成27年公示)※2021年より実施

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_010.pdf

変更点1:単語数が倍増

2019年までは小学校での語彙は”慣れ親しむ”だけで、定着は求められず、

中学校で1200語を学習するだけでしたので、

中学校卒業までに覚える単語数は1200語でした。

 

新学習指導要領では、中学校で習得すべき語彙数は、

「小学校で学習した語に1600~1800語程度の新語を加えた語」となっています。

 小学校では、600~700語程度を習得することが併記されています。

つまり、合わせて2200語~2500語

 

ということは、中学卒業までに覚える単語数は

今までの2倍!!

 

◆小学生のうちに、単語を読んで書けるようにしておく

◆中学生は、今まで以上に難しい単語も覚える

必要があります。

 

変更点2:仮定法などが中学へ前倒し

新学習指導要領が発表されたとき、塾で教えている身としては、

高校英語のメインの1つである「仮定法」が中学内容になったことに

一番衝撃を受けました。

よく見ると「仮定法のうち基本的なもの」という表記でしたので、仮定法過去(もし~なら、~するのに)だけだろうというのには、安心しました。

 

たしかに、仮定法は日常会話でもよく使うので中学生にも知っておいてほしいです。

とはいえ、高校生でも苦手とする子が多い仮定法を中学で教えるのは、

最初は抵抗がありそうです。

直説法(条件)の”If”と混同しそうなので、違いもしっかり理解してもらわなくてはいけません。

 

現在完了進行形・使役動詞は、

仮定法ほど大きな単元ではありませんが、同様です。

日常会話で使うので中学生に知っておいてほしいですが、

使役動詞は、不定詞の理解が前提、

現在完了進行形は、現在完了の理解が前提になるので、

中学生に教える上では、前提になる文法につまづきがないように

理解を積み重ねていくことが求められます。

 

変更点3:「話す」「書く」を重視

今回の教育改革の柱であり、全教科に共通していることですが、

自分の意見を言うための思考力・表現力を養う内容になっています。

 

今回見た英語の教科書でも、

「自分の意見を伝えよう」「考えよう」「説明しよう」「ディスカッションをしよう」

というアクティビティが目に見えて増えていました。

 

単語や文法を知っているのはあたりまえ。

それの知識をいかに使えるか、とうところに重点がおかれています。

 

変更点4:基本的に英語の授業は英語で行う

英語の授業を英語で行う…。

生徒側のハードルが高いことはもちろん、先生への負担が大きいです。

 

今の中学校の英語の先生たちが突然来年からできるのかな?と疑問です。

ガラっと変わることは難しいでしょう。

ALTの先生の力も大いに借りながら、徐々に変えていくことになるでしょう。

 

変わる!中学1年生の英語

最初の文法の壁

中1の教科書を手に取ってみました。

まず、目次を見て唖然…!

 

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New Horizon 中1 目次


あれ?中1の英語って、まずはbe動詞だけじゃないの?

 

Lesson1から、

I am... (be動詞)

I like...(一般動詞)

I can... (助動詞)

が並んでいます。

 

これまでの中1では、

一般動詞は2学期、canは3学期に学習していた内容です。

(学校により違いあり)

それが、Lesson1から!!!

 

それもそのはず。

小学校で、I am もI likeもI canも既に学んでいるから、復習なのです。

 

しかし、小学校の間に、文法としてどれだけ論理的に理解しているでしょうか。

 

be動詞・一般動詞の違い、

つまり、

Are you...?と聞くのか、Do you...?と聞くのか、

は、日本語と構造的に違っていて、中学生ほぼ全員が混乱するところなのです。

塾にやってくる中2、中3でも、英語が苦手と言っている子は、

まずこのbe動詞・一般動詞をチェックし、区別があいまいになっています。

Are you play tennis? 等と言ってしまいませんか?

 

小学生の時に、「なんとなく」英語に触れただけだと、

中1の1学期から文法でつまづきます。

小学校の間に、文法を理解し、読み書きもしっかりできるようにしておかないといけませんね。

 

本文ページの印象

 

中身を見てみましょう。こちらが、中1の最初。

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One World Lesson1-Part1 (出典:https://www.tokyo-shoseki.co.jp/


これまでの中1の教科書の最初は、

例えば

"I am xxx. "

"Nice to meet you." 

"Are you...?"

など、2・3文のみ。

 

それが、来年の教科書は、

中1のLesson1から文字が多い

ギッシリとまではいかないけど、今までの中1とは明らかに違います。

 

もちろん、今まで通り、かわいらしい挿絵もありますが。

 

文字の大きさも、これまでは中1教科書は大きくて

中2,中3となるにつれて無理なく小さいフォントに変わっていたのに、

来年の教科書は中1から小さいフォントです。

 

例えるなら、これまでの中1教科書は小学校1年生の国語の教科書か絵本、

来年の中1教科書は、2~3年生くらいの国語の教科書

くらいの文字の詰まり具合です。

 

小学校1年生が、2年生や3年生の国語教科書を渡されるのをイメージしてもらうと、

ハードルが高いことがわかるでしょう。

 

全体の変更点

サイズ

どうでもいいことかもしれませんが、

教科書のサイズが大きくなります

 

今までは、B5サイズでした。

私が中学の頃を思い出しても同じサイズ。

 

来年からは、B5の横が長くなった、ほぼ正方形に近い形になります。

New Horizonだけは縦にも伸びて、A4サイズ。

(長さを測ったりしていないので、見た感じです。)

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英語教科書のサイズ。隣の道徳教科書がB5だと思います。

 

全体的に本文の量が増え、それでもイラストなどを削除するわけにはいかにので

1ページの面積を増やしたのでしょう。

 

他の科目を見ていても、学習内容が増えているからか、

昔(20-30年前)と比べて、教科書は、大きく、厚くなっている傾向があります。

 

アクティビティ・QRコード

小学校の教科書にも今年から搭載されましたが、

中学校の英語教科書にもQRコードがついています。

 

教科書本文の音声、単語の発音を、手軽に聞くことができます

これは便利ですね。

 

また、前述したように、「話す」「書く」表現力をアップするための

アクティビティが増えています。

これまでも、リスニングや会話練習などのコーナーがありましたが、

本文以外に、そういった実践的なページが増えた印象です。

「アクティブ・ラーニング」がブームですが、

教科書をどれだけ活用できるかは、

担当の先生の力量や生徒の英語レベルに依るところが大きいです。

 

必見!教科書会社による違い

さて、文法に戻ります。

 

先程の通り、中1のスタート時点で文法の難易度が上がるのは

ほぼどの教科書でも共通してみられました。

 

が、教科書会社によって、多少の違いがあります

 

次の表を見てください。

私が展示会でざっと見た感じですが、

最も文法を前倒しで進めていたのがOne World(教育出版)

最もゆっくりなのがBlue Sky(啓林館)

です。

この2つを比較してみました。

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教科書会社による違い

赤字は、これまでの教科書と比べて、学年が前倒しになった単元です。

 

Blue Skyは、赤字が少なく、

印象としては、今までの教科書とあまり変わりません。

もちろん、高校の学習内容から下りてきた3つの単元は

中3の文法項目として追加されていますが、

その他は、各学年1項目ずつ、前倒しになっています。

最も、無理なく進められる教科書と言えるでしょう。

 

一方、One Worldはハードルが高いです。

1年生で学ぶ文法事項が約1.5倍になりました

つまり、これからは、今まで中1~中2の前半でやっていた内容まで、中1で学ぶのです。

そして、

中2では、今までの中2後半~中3前半くらいの内容、

中3では、今までの中3後半からと新しい単元3つ。

 

なぜ、教科書会社によってこんなにも違うのか。

 

それは、学習指導要領を見るとわかります。

中学3年間で学ぶべき内容が提示されているだけけで、

学年による区分がないのです。

各教科書会社がこれまでは調整していたのか、

ほぼ同じ単元を同じ学年で学ぶようになっていました。

 

それが、こんなにもバラバラ…。

2021年度の参考書・問題集はどうなるのでしょう?

中1英語、中2英語、中3英語、それぞれどこまで盛り込むのか?

 

表を見ると、中3は新しく学ぶ文法が少ないことが

お分かりいただけるでしょう。

そうなのです。

中3の英語は余裕があり、

うちの塾でも例年、中3は中1、中2の復習と並行して進めたり

入試の過去問演習をたっぷりする時間があります。

(反対に、数学は中3の最後まで新しい単元があって、時間数が足りません!)

 

したがって、中3の学習単元を増やすのが

最も無理がないのではないかと私は思います

Blue Skyのように。

 

来年、市町村(私立学校は学校)がどの教科書を採択するかによって

大きく英語の難易度が変わるでしょう。

今年8月末までに来年度の採択教科書が決まり、発表されることになります

さて、運命やいかに。

 

まとめ

これまで見てきたように、程度の差はあるものの、

どの英語教科書も2021年から難化します。

 

小学校で英語を科目として学ぶのであれば、当然でしょう。

 

しかし、私が見た感じでは、予想以上に中学校教科書が難化していました。

今後、一般的な中学生が、このカリキュラムについていけるか心配です。

 

特に、現6年生は、小学校で根本的に体系的に英語を学んでいるようには見えないですし、

初年度ということやコロナ休校の影響もあって十分な時間があるとは思えないので、

中1で今までの1.5倍の量を詰め込むのは厳しいのではないかと思っています。

 

これまでも、英語の中1の壁というのはあって、

中1の定期テストは点数の層が二分していました。

昨今、英語を小学生の時から習い事でしている子が多いので、

全く初めての子は(本来それが普通であるはずなのに)ハンデを追っている状態で

最初から英語に苦手意識を持つ子も多いです。

 

それが、来年度から「英語をある程度知っていて当たり前」の中1英語教科書になると、

英語を十分に勉強しないまま進学した中1は、

ますます中1の時点で英語が分からなくなるでしょう。

 

中1時点での苦手意識は根深くて高校まで引きずるので、

何としてでも、中1で「英語がわかる」「授業についていける」そして「英語が好き」という子を増やしたい。

 

ということは、対策は1つ。

 

小学校のうちに、しっかり英語を勉強しておくこと。

具体的には、英検5級程度まで、プラス単語を書けるようにしておくと安心です。

 

長い目で見れば、小学校で英語を教えられる教師が増えて、

"慣れ親しむ"程度の英語ではなく、小学生も中学生のように英語を学べるようになるでしょう。

でも、今後数年でそれが当たり前になるでしょうか。

もし今、小学校での英語教育が期待できないならば、家で勉強するしかありません。

 

私は今回危機感を感じたので、塾としても、

小学生の英語のカリキュラムを前倒したり

新しく英語未経験者のコースを作るなど対応を考えます。

 

あ、それから。

小学生だけでなく、現中1、中2も対策が必要です。

次の学年からぐっとハードルが上がることになるので。

是非、自分で先取りしておきましょう。

 

英語教科書が変わるのは、

今の時代に求められている英語力が変わっているから、

そして、それに伴い大学入試も変わっているからです。

 

大きな流れとして、

より早い学年で単語や文法を習得し、

習ったものを「使える」ようにしていく方向はすばらしいと思います。

教師や親は、この大変革をしっかり心得て、小学校から中学の初めにかけての英語を今までとは全く違うものにしていかないといけないですね。