なお先生のアンテナ

個別指導の塾講師です。教育に関して日々、気づいたこと、シェアしたいことを綴っています。

『自律する子の育て方』読書感想文

 

 

先月から、「わらしべ商人の読書術」を細々と進めていて、この読書法を使った読書感想文講座に参加し、初めての感想文を書いてみた。

 

最近読んでとてもためになった本『自律する子の育て方』を、子育てするお父さん・お母さんに紹介したい。

 

 

ー 大人にも心理的安全性を ー

 

『自律する子の育て方』なんて魅力的なタイトル。更に、前々から興味のあったお二人、神経科学の青砥瑞人さんと麹町中学の元校長である工藤勇一さんの共著としうことで、このお二人から学びたいと思ってこの本を読んだ。

まず、タイトルにある「自律」は常に私も考えている。息子の教育においても、塾の生徒の指導においても、どうしたら受け身でなく自発的に学び行動することができるのか、と試行錯誤している。とはいえ、なかなかうまくいかないこともあるので、この本にヒントをもらいたいと思った。

更に、「自律」をキーワードに、実践と理論の両方の視点から書かれた本ということで惹かれた。麹町中学の教育改革を覗けるだけでなく、それを脳科学的なエビデンスで裏付けているので納得感をもって読み進められた。

 

 

この本で最大のメッセージは、教育において、脳神経科学が活用できる、ということだ。教育において脳研究を活用するのは、比較的新しい考え方だと思う。脳科学神経科学の分野自体、近年急速に発展し、脳の中がわかるようになってきているという。

 

研究の活用の成功実例として、麹町中学の学校改革を分析している。もともと工藤先生は東京都の公立中学である麹町中学校で学校改革に着手していたが、途中から青砥さんとタッグを組んで、研究の一部として改革が進められた。単に現場の経験や勘で行った改革ではなく、科学的な研究に基づいているのが興味深い。

 

定期テスト廃止、宿題なし、クラス担任廃止など、学校の当たり前をやめた。思い切った改革だったが、それがうまくいったのはなぜか。それを紐解けば、家庭での子育てや、人間誰しも身につけたい「自律」を身につけることにも応用できるのではないか。

 

「自律」は以前と比べて必要性が高まっている。21世紀型教育では、詰め込み・暗記の教育ではなく、自ら学んで思考しクリエイティブに表現することが求められている。座学で読む・聞くだけでなく、アクティブラーニング、つまり自ら体験したり友達と話し合ったり、他人に教えたりできる教育に変わっていく。工藤先生の学校のように、生活の中で自己決定を繰り返すことは、この時代の傾向とも合っている。

 

 

自律する子を育てるためのキーワードとして、心理的安全性とメタ認知が出てくる。心理的安全性とは心理的に安心できる状態。理性的な判断をするためには、この状態が不可欠だ。教育においては、大人が子どもたちに、失敗しても大丈夫だよという環境を与えることで心理的安全性が保たれる。そして、その中で失敗などをネガティブな記憶ではなくポジティブな学びに変えていくときに使うのがメタ認知能力、つまり自らを俯瞰的に見て、軌道修正する力だ。

 

心理的安全の反対は心理的危険である。心理的危険=ストレスということかと思ったら、そうではない。筆者は、適度なストレスは必要と言っている。人生においてストレスを全くなしにすることはできないから、ストレスと上手く付き合う方法、乗り越える方法を身につけることも大切だ。心理的危険とは、ストレスが許容量を超えること。

 

神経科学によると、ストレスがかかると体内では交感神経が優位になる。だから、拮抗して副交感神経が活発になろうとする。副交感神経はリラックスするよう働くので、ガムを噛みたくなったり、行き過ぎると暴飲暴食になったりする。ちなみに、これらの自律神経は本人の意思でコントロールすることは不可能だそうだ。だから、子供が爪を噛んでいたりしたら、やめさせるのではなく、どのようなことがストレスになっているのだろう?と考えることが必要という。

 

思春期の息子は、ストレスが多いように見える。心理的危険なのか、適度なストレスなのか、まずは見て気づくことが親の役割ではないか。その上で、できるだけ心理的安全な状態を作ってあげたい。

 

もう一つ、息子と重なったところがある。あなたはコミュニケーション苦手だよね、などカテゴライズすることは危険だと書いてあった。大人と話すのが苦手でも友達とは話せるとか、対面は苦手でもチャットでは問題がなかったり。安易に大人が発した言葉が刷り込みになり、本人が思い込んでしまうことがある。現状は、どちらともとれるのだったら、子供が自信をもつのも、自己否定になるのも、周りの大人の「言葉」次第だ。脳はネガティブなことには自動的に意識が向いてしまうので、自分のことで気になることがあるとそちらに意識がいってしまい、挑戦したり自分を成長させてたりということに向ける意識の領域が減ってしまう。「不要なことは意識させない」を心がけたい。

 

 

ところで、意外だったのは「反省しない」という言葉だった。

子供のことを責めない、否定をしない、というのはよく言われることだが、反省がよくないというのは新鮮だった。メタ認知によって自分を客観的に見ることは大事だが、客観的に見てこんなところがだめだった、などと反省しないこと。

 

子供を責めない、反省させないということが書いてあったが、私は親自身も反省しすぎるのは良くないと思う。うまく行かなかったときには、反省でなく、なぜうまくいかなかったか分析して、自分が成長する材料にする。改善、解決の方向にもっていく。子供も大人も同じだ。

 

反省=否定することになるので、反省を繰り返していると、自分を俯瞰できるようになっても、成長ではなく自分を責めるようになってしまう。ゆくゆくは、自己肯定感が低い子になってしまう。

 

ではそのような流れを作らないために、どうしたらいいか。

著者のアイディアでは、例えば「誰でも失敗する」「完璧な人はいない」「人はみんな違う」「がんばれなくて普通」というメッセージを送ることを勧めている。

 

そうは言っても、現実ではついつい反省してしまうものだ。完璧はない、失敗OKと思っていても、どこかで完璧や理想を目指してしまう。心当たりがあるのだが、他人に自分の子供を褒められた時に、謙遜してしまうのも、反省に近く、子供の自己肯定感を下げてしまうだろう。

 

子供にダメ出ししそうになったとき、子供が反省しそうになったとき、どのような言葉をかけてあげたらいいのか。工藤先生はこのようなポイントを挙げている。

 

.否定しない

(だめだと思っても「いいねえ」等と現状がOKという声かけ)

.本人がどう思ったか、

.どうしてほしいか、を聞く。

この3つの言葉がけ。

 

麹町中学で教員たちに浸透していた3つの言葉がけと重なる。

 

この本を読んでもうひとつ意外だったことは、子供に関することなのに、夫婦関係や睡眠などが関係しているということ。これは子供の心理的安全を保ちやすい環境にするために、大人が心理的危険状態であることがハードルとなるからだ。これは青砥さんが言っている。子供に注目するだけでなく、自分の心理状態も常に気をつけていたい。

 

 

自分自身、普段からできていると感じることもあった。自律とか自発、やる気を出させるなど意識の面だ。私は、日頃子供達と接するにあたり、子供の気持ちを大事にしたり、やらせるのではなく自分でやる気になるよう環境を整えたり、ネガティブには注目せず良いところを探して褒めたり、場作りは意識しちえるつもりだ。これは、この本でいうところの心理的安全性。

 

また、子供と一緒に時間割をつくったり、テストの目標点を自分で決めさせて振り返らせることは、この本でいうところのメタ認知だ。

 

しかし、場づくりはできていても、子供たちが本当に自律して勉強できるようになっているか、というと、私は全く工藤先生には及ばない。

 

工藤先生は、思い切った改革を、公立中学校という保守的な場所で周りの反対もあり、結果がどうなるかわからない中で推し進めた。また、最初に考えた方法がうまくいかなかったら、路線変更する機転も持ち合わせる。失敗してもOK、と全力で本音で信じ、子供達を受け止めるところも心底尊敬する。

 

この本では、大人も完璧を演じない、試行錯誤を繰り返す姿を積極的に子供に見せよという。そう考えると、工藤先生も完璧ではないのかもしれない。改革をすすめる中で壁にぶち当たって路線変更する過程も子どもたちは知っているのだろう。私も、子供に失敗して大丈夫だよ、というのと同時に、自分の失敗もさらけだし、完璧を目指さないようにしよう。それで本当に失敗しても大丈夫、と自分も信じることができるような気がする。

 

工藤先生の実践については他にも著書『学校の「当たり前」を辞めた』なども出ているので読んでみたい。